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名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)30号 判決 1989年7月28日

富山市海岸通三番地

三菱アセテートBアパート三〇三号

原告

田島一郎

名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地

被告

千種税務署長

横山明

右指定代理人

木田正喜

三輪富士雄

小川知洋

石川誠治

種村敏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六二年七月一七日付でした原告の昭和五九年分所得税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五九年当時、訴外三菱レーヨン株式会社商品開発研究所(以下「訴外会社」という。)に勤務していたものであるが、昭和五九年分(以下「係争年分」という。)の所得税の決定(以下「本件決定」という。)、異議申立て、同決定、審査請求、同裁決に至るまでの経緯は、別表1に記載のとおりである。

2  しかしながら、被告が昭和六二年七月一七日付でした本件決定は原告の所得を過大に認定したものであって違法であり、したがって、被告が本件決定を前提にして原告に対し同日付でした無申告加算税賦課決定(以下本件賦課決定という。)も、また違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件決定及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2及び3の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件決定に係る課税根拠について

(一) 原告の係争年分の総所得金額は、所得税法(以下、条文を掲記する所得税法を単に「法」という。)二二条二項の規定により、次の(1)の給与所得の金額と、(2)一時所得の金額の二分の一に相当する金額の合計額である金一一四六万七一二二円である。

(1) 給与所得の金額

原告の係争年分の給与所得は、原告が勤務する訴外会社からの給与等の金額金五三九万九〇七〇円から法二八条二項及び四項の規定により、給与所得控除額を控除した残額である金三八二万一八〇〇円である。

(2) 一時所得の金額

<1> 原告は、訴外明治生命保険相互会社(以下「訴外明治生命」という。)との間に、保険契約者及び保険金受取人を原告とし、被保険者を原告の実子である訴外田島孝夫(以下「訴外孝夫」という。)とする、(a)商品名「こども総合保険」(保険証券番号四五第一八二三五六号、以下「A保険」という。)及び(b)商品名「ダイヤモンド保険ユース」(保険証券番号二六号一三一八一八号、以下(B保険」という。)に係る生命保険契約(以下「本件生命保険契約」という。)を、A保険については昭和五一年二月一日、B保険については同五八年八月一日に、それぞれ締結した。

原告は、本件生命保険契約に基づき、毎月の保険料を訴外明治生命に振り込んでいたところ、訴外孝夫が昭和五九年七月一六日不慮の事故で死亡したので、同年八月一〇日、訴外明治生命に対し本件生命保険契約に基づき保険金等の支払を受けるべく保険金請求書を提出した。

訴外明治生命は、原告の請求に基づき、同月二七日、別表2に記載のとおり保険金を支払ったが、その支払根拠は、A保険については、同保険約款一条二項四号の「被保険者が保険期間中に所定の不慮の事故・・・によって死亡したときは、・・・死亡給付金及び・・・災害死亡給付金を支払うこと」及び同二二条一項の「会社は、満一歳以上の被保険者が、この契約の責任開始日・・・から起算した一五日以後に発生した・・・偶発的な外来の事故・・・を直接の原因として、この契約の保険期間中に死亡したときは、第一八条に規定する死亡給付金とあわせて災害死亡給付金を契約者に支払います。」との規定に基づく災害死亡給付金一〇〇万円及び同約款一条二項三号の「被保険者が保険期間中に死亡したときは、別に定めるところにより計算される金額の死亡給付金を支払うこと」、同条三項二号の「被保険者が保険期間中に死亡したときは、各増加払済保険の死亡給付金を支払うこと」及び同一八条一項の「会社は、被保険者が保険期間中に死亡したときは、基本保険部分の死亡給付金に、第二条の規定により計算された金額の増加払済保険部分の死亡給付金を付加して、これを契約者に支払います。」との各規定に基づく死亡給付金四一万五六〇〇円並びに同約款五六条の規定に基づく社員配当金一万一〇〇〇円の各支払であり、B保険については、B保険約款一条一項及び同項に掲げる特別死亡保険金(表)における「被保険者が、責任開始時以後に発生した不慮の事故・・を直接の原因として、その事故の日から一八〇日以内の第一保険期間中に死亡したとき」は、特定死亡保険金として死亡保険金額の倍額を支払うとの規定に基づく特定死亡保険金一〇〇〇万円及び同約款の傷害特約条項一条一項及び同項に掲げる災害死亡保険金(表)における「被保険金が、この特約の責任開始時・・・以後に発生した不慮の事故・・・を直接の原因として、その事故の日から一八〇日以内のこの特約の保険期間中・・・に死亡したとき」は、所定の災害死亡保険金を支払うとの規定に基づく災害死亡保険金五〇〇万円の各支払である(以下、原告が訴外明治生命から受け取った保険金等を(本件保険金等」という。)。

<2> 以上の事由により、原告の係争年分の一時所得の金額は、本件保険金等(左記(a)に記載の金額)からA、B各保険の払込保険料及び未払保険料(左記(b)に記載の金額)を控除し、更に、その残額から一時所得の特別控除額金五〇万円(法三四条三項)を控除した残額である金一五二九万〇六四四円となる。

(a) 一時所得に係る総収入金額 金一六四二万七七〇〇円

ア A保険に係る収入金額 金一四二万七七〇〇円

(内訳) 災害死亡給付金 金一〇〇万円

死亡給付金 金四一万五六〇〇円

支払社員配当金 金一万二一〇〇円

イ B保険に係る収入金額 金一五〇〇万円

(内訳) 特定死亡保険金 金一〇〇〇万円

災害死亡保険金 金五〇〇万円

(b) 収入を得るために支出した金額の合計金額

金六三万七〇五六円

ア 昭和五九年七月一六日までの払込保険料

金六一万〇〇五六円

(内訳) A保険に係るもの 金四八万六〇〇〇円

B保険に係るもの 金一二万四〇五六円

イ 本件A保険に係る未払保険料 金二万七〇〇〇円

(二) 所得控除額

原告の係争年分の所得控除額は金一七三万三四二五円であり、その内訳は、以下のとおりである。

社会保険料控除額 金三六万〇九二五円

生命保険料控除額 金五万円

損害保険料控除額 金二五〇〇円

配偶者控除額 金三三万円

扶養控除額 金六六万円

基礎控除額 金三三万円

(三) 課税所得金額

課税所得金額とは、総所得金額から雑損控除などの所得控除額(法六九条ないし八七条)を控除した金額をいうところ、原告の係争年分の課税所得金額は前記(一)の総所得金額から同(二)の所得控除額を控除した残額である金九七三万三〇〇〇円である(法八九条二項。ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により、一〇〇〇円未満の端数金額は切り捨てる。)。

(四) 所得税額

原告の係争年分の所得税額は、(三)の課税所得金額につき法八九条一項の規定により算出した金額から前記(一)の(1)の給与所得に係る源泉徴収税額金二六万二一〇〇円を控除した金二〇七万二九〇〇円である(法一二八条一項。ただし、通則法一一九条の規定により、一〇〇円未満の端数金額は切り捨てる。)。

2  無申告加算税

被告は、原告には前記1のとおり給与所得以外の一時所得があり、したがって、納税申告書を提出する義務があるにもかかわらず、当該申告書を提出しなかったことにより、通則法六六条一項の規定により、本件賦課決定を行ったものである。

3  本件決定等の適法性

以上により、本件決定及び本件賦課決定は、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1について

(一) 被告の主張1の(一)の冒頭部分のうち、原告の係争年分の総所得金額に一時所得が含まれるとの主張は争い、その余は認める。

(二) 同1の(一)の(1)は認め、同(2)のうち<1>は認め、<2>は争う(ただし、本件保険金等が一時所得に当たるとする被告主張を前提にした場合に算定される一時所得の金額が被告主張の金額になることは認める。)。

(三) 同1の(二)は認める。

(四) 同1の(三)、(四)については、原告の受領した保険金を課税対象とすることは争うが、右保険金が課税対象となることを前提にした場合に算定される所得税額が被告主張額になることは認める。

2  被告の主張2のうち、原告が確定申告書を提出しなかったことは認め、その余は争う。

3  被告の主張3は争う

五  原告の反論

原告が訴外明治生命から受け取った本件保険金等は、被保険者である訴外孝夫の「傷害に基因する死亡」に対して支払われたものであるから、法九条一項二一号及び所得税法施行令(以下「令」という。)三〇条一号(以下、法九条一項二一号及び令三〇条一号を併せて「本件適用法令」という。)の規定に該当し、非課税所得として扱われるべきものである。

六  被告の原告の反論に対する認否及び再反論

1  原告の反論はすべて争う

2  原告の反論は、以下の(一)ないし(四)に記載の理由により、失当である。

(一) 法九条は、所得のうちにはその性質や担税能力等又は社会政策等の政策的見地から課税対象とするのが適当でないものがあることを考慮して、一定の所得を非課税としたものであるが、課税行政の明確性、公平性の見地から、右非課税とされる所得は制限列挙と解すべきであり、その解釈も厳格に行わなければならない。

(二) ところで、令三〇条一号は、法九条一項二一号で非課税とされる所得は保険金等のうち「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」と規定しているのであり、法令用語として「死亡」と「傷害」が厳格に区別されていることにかんがみれば、本件保険金等のような「傷害に基因する死亡」により支払われたものは、本件適用法令の規定する非課税所得に該当しないことは、文理上明白であり、前記厳格解釈の見地からしても、同条を安易に「傷害に基因する死亡」による保険金等にまで拡張して適用することは許されないものである。

(三) また、法九条一項二〇号は、保険金等の受取人と当該保険契約に係る保険料の負担者が異なる場合において、死亡に基因して支払を受けた保険金については、それがみなし相続財産(相続税法三条一項)又はみなし贈与財産(同法五条一項)により相続税又は贈与税が課税されことにかんがみ、二重課税を避けるために、これらの保険金を所得税法上の非課税所得としているが、これからすれば、逆に右法九条一項二〇号に該当しない「死亡に基因する」保険金等については、所得税法上非課税にしないとするのが所得税法の態度というべきである。

(四) 加えて、本件適用法令が傷害に基因する保険金等を非課税にしたのは、受傷者ないし同人を療養すべきものが保険金等の給付を受け、これを治療費等に費消することにかんがみて、これに課税することを避けた趣旨であると解されるから、かかる事情のない死亡に基因する保険金については、実質的にもみても非課税とすべき理由はないものである。

七  原告の被告の再々反論に対する認否及び再反論

1  被告の再反論はすべて争う

2  被告の再反論は以下の(一)ないし(三)に記載の理由により、失当である。

(一) 傷害による死亡は、傷害のみで終わった場合に比べて、より大きな災害であり、このことは、刑法上傷害罪より傷害致死罪の方が量刑が重いことなどからも明らかである。したがって、被保険者の傷害のみで止まった場合に支払われる保険金等につき非課税とする必要性があるのであれば、傷害によって被保険者が死亡した場合に支払われる保険金等につき非課税とする必要性はより大きくなるのは当然であって、令三〇条一項一号の規定にいう「身体傷害に基因して支払を受ける」保険金等には、傷害によって死亡したことに基因して支払われる保険金等も含めて解するのが相当であり、かく解することが社会常識にも合致するものである。

(二) 相続税法の規定いかんは、所得税法の解釈に影響を与えないというべきであり、被告が、被告の再反論(三)において、相続税法の規定をもって本件適用法令についての自らの解釈に有利に授用することは、許されない。

(三) 死亡の場合においても、葬儀代その他多額の費用を要するのであって、傷害のみに止まった場合に比べて出費が軽微ですむわけではなく、本件適用法令の趣旨に関する再反論(四)の主張は、右の点を看過した議論である。

八  被告の原告の再々反論に対する認否

すべて争う

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  課税経過について

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件決定の適法性について

1  総所得金額

(一)  給与所得の金額

原告の係争年分の給与所得の金額が被告主張1の(一)(1)のとおり金三八二万一八〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  一時所得の金額

(1) 原告が訴外明治生命との間で本件生命保険契約を締結し、係争年中に被告主張の本件保険金等を受領したこと(被告の主張1の(一)(2)<1>は当事者間に争いがない。

(2) ところで、本件保険金等が本件適用法令の規定する非課税所得に該当するか否かについては当事者間に争いがあるところ、以下の<1>ないし<4>に記載の理由から、本件保険金等のような死亡により基因して支払われる保険金等は、本件適用法令により非課税とされる所得には当たらないと解するのが相当である。

<1> 法九条一項二一号は、「損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害・・・に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税所得にする旨規定し、これを受けて、令三〇条一号は法九条一項二一号にいう損害賠償金の一つとして、「損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金」が該当する旨規定しているが、右各規定が「傷害に基因して支払われる」保険金等に限定し、「死亡に基因して支払われる」保険金等には何ら言及していないことからすれば、文理解釈上は、本件保険金等のように死亡に基因して支払われる保険金は、本件適用法令の規定する非課税所得に含まれないと解するのが自然である。

<2> また、法九条一項二〇号は、「相続、遺贈または個人からの贈与により取得するもの(相続税法・・・の規定により、相続、遺贈または個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)。」と規定して、相続税法がみなし相続財産等とする死亡保険金(たとえば、相続税法三条一項一号)を非課税所得に含めているが、これは、相続財産等とみなされる死亡保険金に対する所得税と相続税の二重課税を避けるために、所得税法上はこれを非課税所得として扱う趣旨と解せられるところ、これからすれば、所得税法は、右規定に定める以外の死亡保険金を課税所得とすることを当然の前提にしているものと解されるのである。

<3> 加えて、本件適用法令の趣旨は、傷害に基因して支払われる保険金等は、それが、受傷者自身や受傷者の配偶者若しくは直系血族または生計を一にするその他の親族に支払われる場合には、通常受傷者の治療費等に費消されることにかんがみて、これに課税することは現に療養中の受傷者に対し酷な結果になるとの政策的配慮にあると解せられるところ、傷害による死亡に基因して支払われる保険金等の場合には、受傷者自身は既に死亡しているのであって、かかる保険金等に課税しても受傷者自身に対して酷な結果が生じることはなく、傷害のみに止まる場合とは明らかに状況を異にするのであり、これからすると、所得税法上傷害に基因して支払われる保険金等のみを非課税所得とし、死亡により基因して支払われる保険金等は課税する取扱いをしても、実質的にも必ずしも不合理であるとはいえない。

<4> 原告は、傷害に止まらず死亡に至った場合の方が重大な災害であること、死亡の場合にも葬儀代等の費用が必要であり、この点傷害に止まる場合と大きな事情の相違はないこと等を挙げて、本件適用法令により非課税とされる所得には、本件保険金等のような傷害による死亡に基因して支払われる保険金等も含めて解するべきである旨主張するが(原告の再々反論)、原告の右主張は、所得税法の解釈の範囲を超えた立法論ともいうべきものであって、前記<1>ないし<3>の理由のほか、課税の公平性、明確性の見地から非課税所得を制限的に列挙した法九条には厳格な解釈が要求されることにかんがみても、採用することができない。

(3) 以上により、本件保険金等は、本件適用法令により非課税所得とされる保険金等には該当せず、所得税法上一時所得として課税されるべきものであるところ、本件保険金等の支払を受けたことにより算定される原告の係争年分の課税一時所得の金額が金一五二九万〇六四四円となることは、当事者間に争いがない。

(三)  したがって、原告の係争年分の総所得金額は、前記(一)の給与所得金額である金三八二万一八〇〇円と前記(二)の(3)の一時所得金額の二分の一に相当する金額である金七六四万五三二二円との合計である金一一四六万七一二二円となる。

2  原告の係争年分の所得控除額は、被告の主張1の(二)に記載のとおり合計金一七三万三四二五円であることは、当事者間に争いがない。

3  以上を前提に算定される原告の係争年分の課税所得が、被告の主張1の(三)に記載のとおり、金九七三万三〇〇〇円となること、及び当該課税所得を前提にして算定される原告の係争年分の所得税額が、被告の主張1の(四)に記載のとおり、金二〇七万二九〇〇円となることは、いずれも当事者間に争いがなく、したがって、右総所得金額及び所得税額と同内容の本件決定は適法である。

三  無申告加算税

前記二の1に記載のとおり、原告には給与所得以外の一時所得があったのであるから、原告には納税申告書を提出する義務があるところ、原告が係争年分の確定申告書を提出しなかったことは当事者間に争いがないから、被告の行った本件賦課決定も、また適法である。

四  結論

以上の次第で、本件決定及び本件賦課決定はいずれも適法であり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用については行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 岩倉広修 裁判官 佐藤真弘)

別表一

本件課税処分等の経緯

<省略>

(注)カッコ書きの金額は、源泉徴収に係る給与所得金額である。

別表二

<省略>

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